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空港
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飛行機を観たくなって、空港へ向かった。

母が亡くなって数日が経ち、粛々と葬儀や役所関係の手続きを済ませ、淡々と日常は戻りつつあった。
青々と澄み渡った雲の晴れ間の中で、訥々とした気持ちだけが、取り残された雨上がりの傘のようだった。
空港へと続く一直線の道を、鉛色の車で走行しながら、いつだったか自分が書き上げた物語を思い出した。


――青い空の中心を、飛行機が、飛び去って往く。

「タイラー、今の見た!?」

ゴールデンウィークの最終日。
高広と文乃は、羽田空港の展望デッキに居た。
別に何処かに旅行に行った訳でも、旅行から帰った訳でも無い。



同じ行動だな、と思った。
自分が書いた物語だから、同じことを考えても不思議ではないが、奇妙だった。

不意に、とても飛行機が見たくなった。
まるで乙女のようだが、いきなり、どうしても――


いきなりどうしても飛行機を見たくなる事なんて、年に一回も無い。
いきなりどうしても海を見たくなる気持ちなら、解らなくもない。
いきなりどうしても飛行機を見たくなった時は、どうすれば良いのか。


空港に到着して、展望デッキに立ち、僕は空を見上げた。
馬鹿みたいに、まるで嘘みたいに、澄んだ風の中心を一直線に、飛行機が泳いでいた。
追いすがるような、爆音――


「飛行機の羽ってさ、思ったより下に付いてるんだよね」

「あ、ほんとだ」

「あ、知らなかった?」


あの頃、『鉛色のサンデー』という物語を書いた。
もう十年前の話になる。
ありきたりだけれど、時の流れは速くて、たまに僕達を追い越したみたいに――


「大きい飛行機はさ、羽が思ったより下に付いてるんだよ。
 何となくイメージだと、真ん中くらいに付いてそうなんだけど」

「そうだよね」


あの頃、カーテンを閉めた真暗な部屋の中で、僕は何者かになりたかった。
何者でもない僕は、何かの為に生きてみたかったし、誰かの為に生きてみたかった。
しかし目的と理由だけが存在しなかった――


「だけどね、逆にセスナ機みたいな小さい飛行機は、羽が上に付いてる事の方が多いの」

「へぇ」


一直線に伸びた日常の中を、惰性で進むわけにはいかず。
虚無感とも空白感とも付かぬ、終わりと始まりの尖端に、佇んでいる。
今から僕等は、もう何ひとつ見逃さず、聞き逃さず、何者かにならなければいけない。

遠くなる影。無数のシャッター音。走り抜ける。追いすがる。

重力。

浮遊。

強烈な空気の波。

頭の中を掻き混ぜて、爆音で満たして、僕を連れ去ってくれ。








――青い空の中心を、飛行機が、飛び去って往く。








飛行機が飛んで往く。

一直線に、雲を残しながら、飛んで往く。

貫くのは、何の為だ?

貫くのは、誰の為だ?

答なんて知りたくは無いんだ。

興味なんて無いし、変化なんてしたくも無い。


嗚呼、それでも。


――白い影は細い雲を残し、見送る者と、見送られるべき者とを、一直線に隔てていた。

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Comment - 1

きれいな空。きれいな写真。
見送る者と見送られるべき者か。
親類を亡くしたとき空ばかり見てた。
鉛色のサンデー、もう十年前になるんですね。懐かしい。

2016/05/12(Thu) 01:49

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